2008年11月28日金曜日

欧州共同体意匠制度の枠組



こんにちは、

プロシード国際特許商標事務所
弁理士の鈴木康介です。

今日は、欧州の意匠制度の話です。

本日、弁理士会の研修で欧州の意匠制度のセミナーを聞いてきました。

そのノート代わりのものです。

かなりマニアックな話題ですし、長文ですので、気が長い方以外はお読みにならない方がいいかもしれません。

また、もしも考え違いなどしていましたら、ご教示いただけるとありがたいです。

[欧州共同体意匠(community design)制度の枠組]

1.欧州共同体意匠制度の概論

 意匠規則(CDR:community design regulation)が本法である。

 加盟国は、以下の27国(2008年11月現在)
 オーストリア、ベルギー、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、ドイツ、ギリシャ、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、オランダ、イギリス、ブルガリア、ルーマニア

 つまり、この制度を利用すると上記の27国で使える権利を持つことになる。

 非加盟国は、以下の4国
 スイス、ノルウェー、アイスランド、トルコ

 つまり、この制度を利用しても、スイスや、トルコ(旅行したいなぁ)では保護できない

2.欧州共同意匠制度では、UCD(Unregistered Community Design)とRCD(Registered Community Design)との2種類の保護制度がある

○UCD(Unregistered Community Design)
 登録不要の意匠権で著作権みたいなものです。

A.加盟国にデザインを最初に市場投入することによって無方式で権利発生
  (日本で最初に公開するとたぶんダメ)
B.共同体域内で公衆に利用可能になった日から3年
C.相対的権利

 日本の著作権のように、自然発生するようです。

 欧州共同域内で、公衆に初めて利用可能になってから3年間は保護されるようです。
(Cf.日本国内の不正競争防止法第2条第1項第3号)

 ただし、日本で最初に利用可能になった場合、保護されるかどうかはわかりません。
 保護できる、保護できないという議論がありますが、裁判例がないので本当のところはわかりません。

○RCD(Registered Community Design)
 無審査で登録される意匠権です。

A.出願及び登録が必要
B.出願日より5年、更新可能最長25年
C.絶対的権利

 登録によって権利が発生します。
 米国のように、1年間のグレースピリオドがありますので、日本で販売してから1年以内であれば、権利を取ることができます。
 また、当初UCDで、1年以内に商品の売れ行きに応じてRCDに切り替えるという運用もされているようです。

○RCDのメリット

 1.無審査主義(中国と同じで方式があっていれば登録される)
 2.費用が安い(あとで金額を書きます)
 3.27国に対して1つの出願で済むので、手続きが楽
 4.意匠の概念が広いため、後述するように、商標出願の代わりにもなり得る。
 5.一定の条件下で並行輸入を差止可能出来るらしい。
 6.ある国の判決を他の国の判決に使用可能である
 7.物品に依存しないことも可能(ロゴ)
 8.侵害時は、物品を無視 CDR36(6)

○RCDのデメリット
 1.無効にされるとその効果が27カ国に及ぶ
   (つまり、27カ国で一つの権利だから。。。)

○RCDの出願受理状況
 2006年 約6.9万件
 2007年 約7.7万件

○RCDの登録公告状況
 2006年 約7.0万件
 2007年 約7.4万件

○RCDで登録までかかる期間
 2007年では、5週間程度、約3ヶ月で公報発行

○RCD代理件数ランキング
 一位.ドイツ
 二位.イギリス←それで、前回の商標弁理士協会(ITMA)のセミナーで欧州共同体意匠
 三位.イタリア
 四位.フランス


○保護対象(特許庁の仮訳を引用) 
A.意匠の定義:「意匠」とは,製品の全体又は一部の外観であって,その製品自体及び/又はそれに係る装飾の特徴,特に線,輪郭,色彩,形状,織り方及び/又は素材の特徴から生じるものをいう。
 (CDR3a)
B.製品の定義:「製品」とは,工業又は手工芸による物品をいい,その中には,特に複合製品に組み立てることを目的とする部品,包装,外装,図示記号,印刷用活字書体等を含むが,コンピュータ・プログラムは含まない。
 (CDR3b)
C.複合製品の定義:「複合製品」とは,交換することができ,分解及び再組立を可能にする複数の構成部品によって構成されている製品をいう。
 (CDR3c)

○保護される意匠の具体例
A.全体意匠
B.部分意匠
C.装飾
D.ロゴ ← 重要 日本とは異なり、商標的な保護もできるようになる。
E.グラフィックシンボル ← 重要 日本とは異なる
F.アイコン ← 重要 日本とは異なる
G.キャラクタ ← 重要 日本とは異なる
H.彫刻
I.タイプフェイス ← 重要 日本とは異なる

3.出願手続き

○手数料
 一意匠一出願
  EUR 350(登録料230 公告料120)

 多意匠一出願(一度に99意匠まで平気なようです)
  2~10 (登録料115 + 公告料60)
  11~  (登録料 50 + 公告料30)

 公告繰延料(日本の秘密意匠のようなもの)
  1意匠  EUR40
  2~10 EUR20
  11~  EUR10

 更新料
  1回目 EUR 90
  2回目 EUR120
  3回目 EUR150
  4回目 EUR180

日本の秘密意匠のように、登録されても秘密にしたい場合には、まず、登録料+公告繰延で支払い、3年以内に公告料を支払うことで、公告されます。
原則は、3年間秘密にされます。

○図面または写真
 1~7図面(写真)

 日本とは異なり、A-A線などは、ダメ、100words以内のDescriptionで説明するようです。例えば、B図は、A図の下面図である。など

 ロゴ(Logos)で出願することによって、物品拘束がないグラフィックシンボルの出願が可能です。

○願書の必須記載事項(CDR36)
 (a) 登録願書
 (b) 出願人を確認する情報
 (c) 意匠の表示であって,複製に適したもの

(2)出願書類には,その意匠を組み込む予定であるか又は適用する予定である製品の表示を含めなければならない。

 また、以下のものを出願書類に含めても良いようです。
 (a) 表示又は見本を説明する説明書
 (b) 第50条による,登録公告の延期を求める請求書
 (c) 出願人が代理人を選任している場合は,代理人を確認する情報
 (d) 意匠を組み込む予定又は適用する予定の製品に関するクラス別分類
 (e) 意匠創作者若しくは意匠創作者集団に係る名称表示,又は出願人

 出願時、登録時に、Class、Descriptionは関係ないようです。
 例、自動車で出願、おもちゃに権利行使可能なようです。
 また、Description は公開されないとのことです。

○優先権
 出願日から1月以内CDIR8(1)
 出願日から3月以内CDIR(1)
 最初の開示から6月以内(CDR44)

○無効審判
 ルート1(無効を求める) OHIMの無効審判部 第一裁判所 欧州裁判所
 ルート2 (侵害訴訟の反訴) 欧州意匠裁判所

○侵害訴訟
 裁判管轄CDR81条 CDR82条
 上訴(CDR92条)
 有効性の推定(CDR85(1) CDR85(2))

○登録要件(無効審判)について
 A.新規性 CDR5(1)(b) CDR(2)
 B.独自性 CDR6
 C.技術的機能によって定められた意匠、連結の意匠に該当しないこと
 D.第三者の商標など知的財産と抵触しないこと
 E.意匠保護の除外(見えないものは保護しない)

 審査官は上記の条件を審査しないので、無効審判の際に判断される。

 OHIM Invalidity division 3~5名
    ↓
 OHIM Board of appeal
    ↓
 Court of First Instance
    ↓
 European Court of Justice

 登録対無効宣言0.16%
 うち無効が認容60%

 当事者主義の原則 CDR63

 独自性(individual character CDR6)の判定は、以下のように行われるらしい。
 A.Informed userの感覚による(not professional, not ordinary person. They have design awareness.)
 B.全体印象、支配的な特徴で判断する。
 C.独自性の判断はデザイナーの創作の自由度を考慮する。
   -機能性に依存している。
   -似たものが多くある。

○第5条及び第6条の適用上、無効理由になる意匠(CDR7)
1.出願前に公衆の利用に供された意匠
2.EU域内で事業を営む当業者にとって、ビジネスの通常の過程で、合理的に知り得た意匠(例、アメリカや、中国の意匠公報)

 また、無効審判の請求人適格は、無効理由によって異なります。

 将来的には、この内容を整理して、図解したいなぁと思っています。

4.参考リンク

特許庁の外国産業財産権制度情報のページのリンク
(各国の法令の仮訳が掲載されています)

OHIM(Office of Harmonization for the Internal Market)のページより
Community Design Regulations
Registered Community Designの検索ページ

お読み頂き本当にありがとうございました。





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